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東京高裁 不当労働行為を認定

「国鉄分割・民営化に反対する…労働組合に所属していること自体を理由として、差別して不利益に取り扱う目的、動機(不当労働行為意思)の下に、本件名簿不記載基準を策定し、…JR東日本の採用候補者名簿に記載しなかったものと推認するのが相当」

「JR東日本は、国鉄とは別個独立の新法人であり…いかなる者を雇い入れるか…自由にこれを決定することができる以上、採用候補者名簿に記載されることが、直ちに同社に採用されることを意味するものではない」

動労千葉鉄建公団訴訟(解雇撤回・原職復帰裁判)東京高裁判決(2013年9月25日)より

「解雇撤回・JR復帰」が当然の結論

葉山岳夫弁護士(動労千葉弁護団長)に聞く 

 動労千葉鉄建公団訴訟控訴審の判決は、一審に続き不当労働行為を認めながら解雇撤回を認めなかった。最高裁において「解雇撤回・JR復帰」の判決をかちとる闘いに向けて、葉山岳夫・主任弁護士に聞いた。

不当労働行為を明確に認定した

――2012年9月25日、動労千葉・鉄建公団訴訟控訴審の判決が出されました。

 この裁判を担当した難波孝一裁判長(東京高裁第12民事部)は、以前に国労組合員の裁判も担当していました。難波裁判長は、JR東日本への不採用は、「過去3年間に停職6カ月または2回以上の処分を受けた者は不採用」という名簿不記載基準は明確であり合理的だとして解雇無効の訴えを認めず、もちろん不当労働行為も認めませんでした。
 それに対して今回の判決では、2012年6月29日の白石判決に引き続き、名簿不記載基準には動労千葉の組合員を差別して取り扱う不当労働行為意思があったと認定しました。
 不当労働行為を認めたのです。これは、国労などの裁判を含めて初めての判決です。その意味で画期的な判決だったといえます。その反面、解雇を有効とした点で反動判決だといわざるを得ない。
 また、白石判決では採用候補者名簿に記載されればJR東日本に採用されたはずとして、JR職員としての給与支払いを命じました。ただしその期間は、理由ならざる理由で3年間に限られました。しかし、不採用は不法行為だと明白に認めたわけです。これを難波判決は否定しました。名簿に記載されたとしても設立委員会が選別した可能性があり、JR東日本に採用されたとは限らないとしたのです。
 実際には名簿に登載されたものは全員採用されました。設立委員会がそこで選別することはあり得ませんでした。時間も資料もありませんでした。
 しかし、設立委員会が「採用の自由」を有するとして、名簿に記載されればストレートにJRに採用されたはずだという実態にもとづく判断を退けたわけです。
 「名簿に記載されても採用されたとは限らない」という理屈は、以前のJR北海道や九州の場合の判決と同じ理屈です。
 しかし、北海道や九州では基本計画での定員を採用希望者数が上回っていましたが、JR東日本の場合には下回っていました。前提条件が違う中で同じ理屈を援用するために事実をねじ曲げています。 それと同時に、国鉄改革法23条による採用手続きの二段階分け(国鉄が名簿を作成し、その名簿に基づいて設立委員会が採用)を自ら崩してしまっています。

国鉄改革の真実から逃げた判決

――難波裁判長は一切の証人調べを拒否して結審しました。

 その通りです。それに対して、口頭弁論再開を申し立てました。そこで証拠として提出した『国鉄改革前後の労務政策の内幕』で、当時JR西日本会長であった井手正敬が次のように述べています。
 井手と葛西敬之(当時の職員局次長)が齋藤英四郎設立委員会委員長(当時の経団連の会長で新日鉄の会長)と会談して、数回あるいは重い処分を受けたものが採用されるのはおかしい、基準を作るべきだと進言しました。
 齋藤委員長がこれに同意して新しい基準の作成を命じた。それで、葛西が本件名簿不記載基準を作成した事実が明らかになりました。 名簿不記載基準が国鉄当局の行った不当労働行為であるのみならず、設立委員会も積極的に関与していた事実が明らかになりました。
 国鉄改革法23条では、設立委員会の行った行為は承継法人の行為と見なすという規定があります。したがって、この不当労働行為の効果は国鉄改革法を前提としても直接にJR東日本に及びます。
 不当労働行為は原状回復が大原則です。動労千葉組合員9名について、解雇撤回・原職復帰、JR東日本への採用が当然だということが事実をもって裏付けられた。その意味で非常に重大な事実が明らかになったといえます。 難波判決はそのことについて考慮せず、JR東日本に不当労働行為の責任はなく、解雇は有効と判断するという重大な間違いを犯しています。――その会談はいつ行われたのでしょう? 1987年2月2日の午後と思われます。改革労協(動労や鉄労など分割・民営化に賛成した労組で結成)が鉄道労連として結成する大会の日です。
 それ以前から改革労協は、分割・民営化に反対した組合を採用において差別すべきだ、すなわち、採用差別の不当労働行為をやれという特別決議をあげていました。
 2月2日午前中に杉浦総裁は、採用希望者数が定員に達しなかったので希望者全員を採用しないのは問題があると発言したので改革労協側と厳しく対立しました。普段ならば鉄道労連の結成大会には国鉄総裁や運輸省幹部が当然に出席していたはずですが、誰も出席しなかった。
 ところが夕方のレセプションには一転して、杉浦総裁が参加して、にこやかな雰囲気でみなさんの要望に添う形で対処したいとあいさつしている。不採用基準の策定が決定され、午前中の冷ややかな関係が一挙に変わったということです。
 そこから会談は2月2日午後に行われたと強く推認できます。したがって、なおさら葛西の証人調べが必要だった。しかし、それを拒否して判決を出してしまった。

「国鉄改革法」は憲法違反の法律

――最高裁での争点はどういった点でしょうか?

国鉄改革法23条(抜粋)

@承継法人の設立委員は、日本国有鉄道を通じ、その職員に対し、それ ぞれの承継法人の職員の労働条件及び職員の採用の基準を提示して、 職員の募集を行うものとする。

A 日本国有鉄道は…職員の(JRへの採用を希望する)意思を確認し、 …採用の基準に従い、その職員となるべき者を選定し、その名簿を作成して設立委員等に提出するものとする。

B前項の名簿に記載された日本国有鉄道の職員のうち、設立委員等から採用する旨の通知を受けた者…当該承継法人の職員として採用される。

 難波判決は、国鉄がいかに不当労働行為を働いても、名簿に記載されなければ必ず国鉄清算事業団送りになることを前提にしてしまった。確かに国鉄改革法の枠組みを前提にして、国鉄とJR東日本との実質的同一性を否定するという誤った立場をとればそういう考え方もありえます。
 しかし、国鉄改革法そのものが憲法違反の法律ですから、難波判決は憲法違反の誤りを犯しています。 国鉄改革法23条はいわゆる職員の振り分けについて、原則は国鉄=国鉄清算事業団とし、JR東日本等の承継法人への採用は新規採用だという非常な虚構性を持った論理を作り上げました。二段階に採用手続きを分断し、名簿作成過程の国鉄当局による数々の不当労働行為を容認しています。
 これは、国会審議でも問題になりました。不当に名簿から外されたものを救済する措置がまったくなく、新会社の労働条件について団体交渉が一切できない。さらに、名簿作成の基本的資料である職員管理調書には労働処分について詳しく書き込むことが義務づけられていました。しかも、設立委員会から要求があれば提示することになっていました。
 過去の労働処分等を不採用の理由としないという参議院の付帯決議に公然と違反している。採用にあたって労働処分の通信を禁じた労働基準法22条4項に違反する規定でもあります。
 その意味で国鉄改革法の中でも23条は特に違憲性が高いことを、上告理由書で力を込めて主張しています。

署名運動の展開で最高裁を包囲

――最後に最高裁闘争に向けた訴えをお願いします。

 2013年春、白石裁判長が不当労働行為を認める判決を出した後に「左遷」される、いわゆる「白石事件」が起きました。その反動的な状況を打ち破る形で国鉄闘争全国運動の大集会が成功し、5万筆超の「解雇撤回・JR復帰」署名を裁判所に突きつけた。
 そういう闘いが難波裁判長に不当労働行為を認めさせたと思います。
 最高裁での裁判闘争も、やはり国鉄分割・民営化に反対する国鉄闘争全国運動の一層の前進、とくに大署名運動の展開と、職場闘争を基礎とした最高裁を取り巻く大運動で判決を勝ち取っていくことが必要です。
 全国的な闘いの前進と高揚が非常に大事だと思います。

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