座 談 会

――これからが正念場――

国鉄闘争全国運動の発展を / 動労総連合を全国へ

(参加者)

伊藤 晃(日本近代史研究者)
花輪不二男(世田谷地区労働組合協議会顧問)
山本弘行(動労千葉を支援する会事務局長)
芹澤壽良(高知短期大学名誉教授)
田中康宏(国鉄千葉動力車労働組合委員長)

1 国鉄改革法を打ち破った!

司会 
 国鉄1047名解雇をめぐる動労千葉の鉄建公団訴訟で6月30日、最高裁が双方の上告を棄却する決定を出しました。ここには、30年に及ぶ国鉄闘争をつぶし日本の労働運動全体を打ち砕こうとする国家権力の意志が示されています。戦争法案の国会審議と一体の攻撃です。だから私たちは、全国の仲間たちにあらためて呼びかけて断固として闘いを継続することを決意しています。
 一方、今度の上告棄却で、国鉄分割・民営化(1987年)における選別再雇用が不当労働行為だったことを認定した高裁判決が確定することになりました。「国鉄分割・民営化に反対する労働組合に所属する労働者を不当に差別する目的、動機でJR不採用基準をつくった」と明確に認めさせたのです。
 一審の白石判決は「その基準がなければ動労千葉の組合員はJRに採用されていた」と認定した。二審の難波判決は「採用されていた可能性は相当程度にあったが採用されたとまでは言えない」とそれを後退させましたが、不採用基準が不当労働行為意思のもとにつくられたことは認めざるをえなかった。そして最高裁はそれを覆すことができなかったのです。
 私たちの闘いは戦後最大の労働運動解体攻撃と対決して闘い抜いて、それが国家的不当労働行為であったことを暴き出しました。その意味で今回の決定は歴史的な大きさを持っていると思います。 

闘いはこれから

田中
 国鉄分割・民営化から約30年、特に2010年4・9政治決着以降は、動労千葉を中心にした闘いになりましたが国鉄闘争全国運動のもとに多くの仲間たちが結集してくれて、今日まで歴史に前例のない闘いを実現することができた。そして今、上告棄却という節目を迎えてれから何をなすべきなのかを考えています。
 動労千葉の立場は鮮明です。裁判所がなんと言おうが闘いは何一つ終わっていない。終わらせるわけにはいかない。これからだと決意しています。
 今回の判決には「これ以上、国鉄闘争の継続を許さない」という国家意思が示されています。安保法制の強行や改憲、労働法制の最後的解体、連合すら再編して戦争に向かって社会全体をつくり変えようという動きと一体の攻撃です。
 一方こうした大きな政治的流れからすれば「国鉄分割・民営化が不当労働行為だった」と認定した地裁・高裁の判決をひっくり返して全否定する使命を最高裁は帯びていたはずです。 だけど、われわれが暴きだした真実や10万筆を超えた署名運動の広がりが最高裁を追いつめそれを許さなかったことは間違いない。
 最高裁は1年9カ月、揺れに揺れて国鉄分割・民営化の根幹部分が国家的不当労働行為だったことを法的にも確定せざるをえなかった。これは本当に大きな意味を持っていると思います。もちろん、最高裁で確定したから失われた権利や団結が回復するわけじゃない。でも反撃の大きな拠点ができた。まさに闘いはこれからです。

 労働運動本来の姿

花輪  国鉄分割・民営化は、労働者に対する思想攻撃という面を持っていた。「先輩、闘うと言ってもそういう時代じゃない」とよく言われました。労働運動が押さえ込まれていると感じたんです。しかし、最高裁が不当労働行為を否定できないところまで追いこんだ。
 他方で最高裁は「情勢は変わった。解雇撤回はできない」という判決を導いてきたんじゃないか。安保法制を見ても「情勢は変わった」という論理で結論ありきでつじつまが合わない議論を平気で押しつける。
 これをぶち破るためには、原則的な立場で闘う労働組合をより強く組織していく必要がある。国鉄闘争全国運動は良い位置を担っていますね。

伊藤 われわれの運動も、防御的な立場で戦術を選択し、裁判所や労働委員会をやむを得ず利用しますね。しかし今度の鉄建公団訴訟は攻撃的な運動が展開できた。執しつよう拗に新証拠を探し出し、署名運動や要請行動、集会で圧力をかけた。労働運動の本来の姿に帰った。
 裁判所側も国鉄改革法に固執し、必死で防御線を張った。解雇金銭解決の先取りという面もあります。しかし、国家的不当労働行為を認めざるをえなかったことは、それ以後、国鉄分割・民営化をモデルにしてやった不当解雇がすべて不当労働行為だった、闘おうと思えば闘えたということです。こちら側も攻勢を進めて、現在の労働規制緩和を許さない運動のきっかけにする意味があると思う。

田中 これまでの判決では「不採用基準は具体的で合理的」で切られていた。しかし、われわれは、いつ誰がどういう判断で不採用基準をつくったのかを詳細に明らかにさせた。そして、国鉄分割・民営化、採用差別事件の根幹の部分を打ち砕いた。 それは労働運動の復権に向けたこれからの闘いにとって必ず大きな意味を持つと思います。国鉄分割・民営化反対闘争の総括にも関わることですが、国鉄改革法に真正面から立ち向かえなかった労働運動の側の弱さがあった。政治解決路線の背後にあったのはその問題です。だけど、戦線を揃えて正面から闘えば国鉄分割・民営化を粉砕できた。その確信をつかむことができました。 

最後まで闘い抜いた

芹澤 裁判闘争としては一つの最終的な結論が出たことになるわけです。
 私が動労千葉に敬意を表するのは、労働運動の闘い方のすべてを取り組んできたことです。国鉄闘争をみてもみんな途中で終わっている。「最高裁があるではないか」という有名な言葉がありますが動労千葉は最高裁を最後まで追撃した。私自身の諸経験からいっても立派な闘いだったと思います。これは敬意を表したい。
 裁判闘争の中でも、一審の白石判決、二審の難波判決など、闘いの過程でそれまでの判決を超えていった。最高裁を追い詰めながら、今日の情勢の中で押し切られたことの位置づけは、私にとっても一つの大きな課題だと思っています。
 その意味では、従来の「最高裁で終わり」ではない闘い方を示していくことのできる闘争じゃないかと思います。私も一緒に学ばせてもらいながら、経験を整理し教訓を引き出す必要があると思います。 とにかくよく闘ったと思います。あれだけの組織力を持った組織がすべて途中で和解になった。動労千葉が最後まで結論を求めたのは評価されるべきだと思います。立派だった。

田中
 国鉄分割・民営化がいま現在の問題として延々と続いた。だから闘いの旗を降ろすことは考えられなかった。支配階級の側からすれば、労働運動を解体する目的を達成したら過去のことにしたかったはずです。ところがそうはならずに30年間も延々と同じような労働者への攻撃を続けるしか支配の方法がなかった。だから、あの時代に生まれていなかった若い世代も自分自身の問題だと受け止めてくれる。資本主義の危機ですね。こういうことが背景にあったから闘い続けることができた。 国鉄分割・民営化から28年も経って署名が最高裁段階で10万筆も集まることも考えられないことです。

芹澤 僕は、動労千葉の大きな成果・教訓は、国鉄闘争全国運動だと思います。2010年に「国鉄闘争の火を消すな」の一点で闘いを広範に呼びかけて構築した。これは大きな成果。結局、他の闘争ではこの種のものができなかった。動労千葉が、ある意味でこれまでの闘いの狭さを自己批判して、労働組合運動を中心にして全国的な支援運動をつくりあげた。統一戦線運動といいましょうか。新しい試みで、いろんな経験を積み上げていった。
 日比谷公会堂で開催された6・7全国集会もあれだけの会場に人を集めた。私にも非常に良い経験でした。署名10万筆を達成したのもあの時ですよね。

田中 今日は10万筆達成は難しいかなと思ったら、ばっと持ってきてくれたところがあった。 

解雇撤回≠ェ核心

山本 東京東部です。東部地域だけで1万筆集めた。動労千葉を支援する会の運営委員会で「地域の労働組合に署名を呼びかけよう」と議論した。組合を訪問する過程で解雇撤回≠貫いて闘っていることの大きさを本当に感じた。訪れた労働組合は一つの分会で数人というところもあるけど本当に共感してくれた。新潟や神奈川もそういう感じです。
 いま運営委員会で「不当労働行為を認めさせた以上、JRに解雇撤回を要求しよう」「運動の継続・拡大へトーンを上げよう」と議論しています。やっぱり解雇撤回≠ェこの闘いの核心です。

2 なぜ闘いを継続できたのか

田中  動労千葉以外が解雇撤回闘争の旗を降ろしてしまった2010年の時点で新しい闘いを提起するのは、これまでの労働運動の経験からすれば常識外れでした。あらかたの人は「そんなことは成り立たない」と思ったでしょう。普通ならこれで終わりです。でも三池闘争の歴史などを見直し、「闘いの継続に力を貸してほしい」と訴えた。これだけ多くの人が結集してくれて心から感謝しています。腹を括くくって全国に訴えて良かったと改めて思っています。
 なぜ闘いの継続を決意することができたのか。解雇撤回と一体で、JR職場での外注化反対を闘っていたことが大きかった。現場では民営化後も攻撃が延々と続いていました。特に15年前から外注化・非正規職化との引くに引けない闘いに入っていました。闘いをやめられるはずがない≠ニいう思いは現場の闘いがあったからです。

芹澤 全国運動って名前が良かったよ。響きがいい。幅広さを感じるし、みんなで手を携えて動労千葉の闘いを支えようと。気分の面では良い名称と思います。

伊藤 判決が出ればたいていは「これで終わった」となる。けれども今回の決定で誰もそうは思ってない。「これからだ」は共通している。

芹澤 新しい運動を追求する上で考える必要があると思いますが、国鉄が労働者のくびを切った事実はずっと存在し続ける。これに対する闘いはいくらでも組める。そういう性質のものだと思います。
 その場合、いろんな課題に対する闘いとの結合です。より太いものにしながら「解雇撤回」を据えて総合的に闘うことが必要ではないか。新幹線やリニア、北海道の問題、JRの中には課題がいっぱいあります。そういうものをきちっと調査し、どういう点で広範な団結ができるかを据えて地道に呼びかけて組織していく。そうして全国的な運動を展開する努力、取り組みが必要じゃないですか。

 闘いの成果と教訓

花輪 東京西部ユニオン鈴木コンクリート工業分会を支援してきました。中小の小さな争議でも、解雇撤回の要求を貫徹して非正規労働者の闘いを燃え上がらせる。そういう意味では、労働組合の基本姿勢を貫き通したところに鈴コン分会の勝利があったと思う。
 小さな中小企業の闘いにすればそれなりの闘いにしかならない。だけど、いまの非正規労働者の状況から考えれば、この闘いはそのすべての人たちとの連帯の闘い。ゲリラ戦を闘っていたらいつの間にか表舞台に立っちゃった印象です。 鈴コン分会が裁判闘争で勝って3人が職場復帰したことは第一の喜びですが、逆に復帰したことで責任が大きく広がった。ある意味で大変だと身構えているところです。
 やっぱり現場の闘いがものをいう。国鉄分割・民営化で労働運動が徹底的に攻撃された姿をみて、中小の闘いも大変になった。しかし勝ったとなれば「俺たちもやれば勝てる」という自信につながっていく。

伊藤 最初に署名運動に取り組んだとき、みんなゲリラ的な感覚だったと思います。しかし10万筆を達成して、むかし労働運動をやっていた感覚が多少は戻って来たのではないか。職場や組合を訪ねて話をすれば応答がある。その経験は大きい。署名運動は直接的には裁判所への圧力だけど、労働運動の感覚を復活させるきっかけにもなった。
 労働者に絶望感や無力感、自己不信を植え付ける。これが資本の側の戦略。それに対して、労働運動と資本との対抗関係の中ですべてが進むという感覚をもう一度復活させたい。その手がかりを少しつかんだ。

山本 不当労働行為を確定させたことを大きくアピールしたい。国労闘争団の訴訟では、期待権への侵害と賠償だけでした。今度の判決は、不採用基準そのものが不当労働行為と言っている。これはすごいことです。それをでかい声で全国に知らせて新たな闘いへの結集を呼びかけたいですね。

田中 〈不当労働行為だと認めたのだから解雇を撤回しろ〉という当然の要求は絶対に譲れないものです。なぜなら、すべての労働者の権利、労働組合の存在意味に関わる問題だからです。特に、「解雇金銭解決」「解雇自由」が社会的問題になっていることもあり、本当に闘いはこれからだと思います。

花輪 金銭解決を認める認めないは最後は労働者の問題です。労働者が闘えば、これを認めない戦線ができる。労働組合が真価を問われるのは権利意識を持って闘うかどうかです。「職場復帰が闘いのメインスローガンだ」と闘っていけば、法律は吹っ飛びますよ。われわれの戦線が闘う労働組合の真価をどれだけ示していけるかにかかっている。

芹澤 この段階で闘った側からの国鉄闘争の総括が必要です。動労千葉が果たした役割は非常に大きい。かちとった権利の本質的な評価を整理して、闘い方も含めて教訓をまとめる。それを日本の労働運動全体に提供していく。非常に大事なことです。これは、いま闘われている権利闘争にも多くの教訓を提供していますよ。

 暴き出した真実

山本 高裁も最高裁も井手文書に一言もふれてない。井手や葛西ら旧国鉄幹部とJR設立委員長が共謀して不採用規準を策定したことを自白した文書です。高裁で証拠として出し、『暴かれた真実』というパンフレットを2回出した。
 この文書で井手が吐とろ露しているのは本当に重大な事実です。表面上は国鉄改革法の規定でJRと国鉄は無関係としておいて、裏では結託して国鉄分割・民営化に反対する労働者を排除した。裁判でこれを満天下に明らかにした。

田中
 この問題に触れればJRに責任がないとは到底いえなくなる。だから高裁も最高裁も一言も触れずに逃げた。

伊藤 それを扱えば社会保険庁など国鉄改革法を原型とする解雇がすべて問題になる。向こうもそれは防御線です。

芹澤 井手正敬はある意味で一番ワルです。井手は国鉄改革3人組として国鉄労働組合運動を握って悪行を行った張本人。

田中
 井手がリーダーでした。葛西敬之や松田昌士は分割・民営化の過程で頭角を表した人物です。

3 国鉄闘争の今後とその展望

司会 次は〈国鉄闘争と現在・未来〉を考えたい。 安倍首相は、集団的自衛権行使を閣議決定して安保法制を衆院で強行採決しました。国会には連日、数万人の怒りの声が結集し時代が動き始めています。
 その一方で、総評解散に次ぐ労働運動再編の攻撃が動いています。 6月26日には安倍とUAゼンセン逢見会長が官邸で極秘会談をしています。櫻井よしこは、それに先立って「UAゼンセンよ、連合を分裂させよ」と主張していた。UAゼンセンは、政府・資本と一体でこの間急速に154万人という日本最大の労働組合に成り上がり、改憲・徴兵制・原発に賛成する方針を掲げています。
 こうした中で、動労千葉の外注化・非正規職化粉砕闘争、動労水戸の被曝労働拒否闘争が果敢に闘われ、動労総連合を全国につくろうという努力、JR本体―下請け会社、正規―非正規を貫く労働者の組織化に向けた闘いが進められています。 

教育労働者の闘い

伊藤 60年安保のことを思い出すのですが、64年に新幹線が開通して経済が上向きで国民的な一体性があり、池田内閣の所得倍増計画で切り抜けた。 いまはそういう一体性はなく、社会は壊れつつある。そういう状況に対して労働組合は何ができるか。確かに労働組合の改憲勢力化も進んでいる。労働運動をつぶさなければ戦争はできない。だから安倍政権も必死にやると思いますが、反撃する糸口は無数にある。そこをどうとらえるかが重要です。
 解雇撤回署名をもっとも積極的に取り組んでくれたのが、社会崩壊に直面している自治体労働者や教員でした。社会崩壊の最前線でどう労働運動をつくっていくのか。特急廃止反対を取り組んだ館山や銚子の経験、被曝労働反対ストライキで闘っている動労水戸の経験を生かすべきだと思います。

花輪 安倍政権は日教組に焦点を合わせている。そういう観点も踏まえて戦略を立てていかないとまずい。古くて新しいスローガンですが「教え子を戦場に送らない」はいまも不変です。年配の人はすぐ反応するけど、労働組合すら忌きひ避する若い教員もいて、そのあたりが勝負かなと思います。

田中 都高教の大会でスローガンから「教え子を再び戦場に送るな」がなくなった。

芹澤 そうなんですか。

伊藤 深刻ですよ。

田中 修正動議が出たけど動議自体を取り扱わなかったそうです。

芹澤 どういう理由で…

田中 動議に瑕かし疵があるという理由です。なぜこんなことが始まっているのか。18歳選挙権が決まるとたちまち「政治的中立を守らない教員には罰則を」と言い出した。安倍政権は明らかに国鉄闘争、日教組、自治労を解体の対象にしている。それへの屈服でしょう。 戦争法案はすべての労働現場をそういう坩る つぼ堝に入れるものです。マスコミや教育だけでなく全部です。さらに新自由主義が社会を丸ごと崩壊させる。わたしはその渦中からこそ、新しいものが生まれてくるのだと考えています。労働運動が再び力を取り戻す可能性もそこにある。

4 現場から闘いの火をつける

田中 これからの闘いの方向として4つを考えています。 第一は、先ほど言ったことです。すべての労働者の権利の問題として解雇撤回闘争を貫く。
 第二は、中曽根元首相が「国鉄分割・民営化で国労と総評、社会党をつぶして立派な憲法を安置する」と公言したことが、今まさに現実の問題となって火花を散らして闘われている。国鉄闘争がその先頭にたつことです。特に戦争に向けた労働運動の再編を許してはいけない。それは国鉄闘争の最大の課題です。
 第三は、安倍政権は、派遣法の抜本改悪や労働時間規制解体、戦略特区など徹底的な労働規制緩和や社会丸ごと民営化、総非正規職化で危機を乗り切ろうとしている。JRでもそれと一体で第二の分割・民営化攻撃が始まっている。これからが本格的な闘いです。
 第四に、国鉄分割・民営化攻撃と対決して、誰も実現できなかった地平を切り開いてきたわけですから、全国運動を本格的に発展させたい。そして動労総連合を全国につくりあげたい。「労働組合は何をなすべきか」を問うものとして国鉄闘争を断固として継続し、具体的な闘いの姿を提示していきたいと考えています。

 戦争と労働組合 

 特に改憲と戦争に向けた労働組合の再編攻撃について、起きている事実を現場に知らせ、それを打ち破る力が現場の労働者にあることを訴えたい。全労連なども含めてこの現実に完全に沈黙しています。この役割を国鉄闘争全国運動が果たさなければならない。
 安倍政権も表層でしか勝負できていない。UAゼンセンが徴兵制まで認める政治方針を持ち、憲法9条2項を廃止して国防軍を設置せよと主張していることは、組合員は誰も知らない。UAゼンセン使って労働運動を解体再編すると言っても、労働者を制圧することなどできない。
 だからわれわれは現場の労働者に火をつけて勝負する。「労働組合が戦争や改憲に協力していいのか」と。国鉄闘争はそれと闘ってきたことを訴える。そのときに戦争反対の声が大きな力になる。
 1989年の連合発足時、竹下首相は「抱擁したい」と言った。だけど必ずしも連合は彼らが思ったとおりの存在として完成しなかった。連合労働運動の対抗関係で国鉄闘争、1047名解雇撤回闘争が存在したからです。

花輪 面従腹背というところがありますからね(笑)。

田中 国会には、戦争法案反対で10万人の怒りの声が結集していますが、こうした状況を土台で守りぬいてきたのは30年にわたる国鉄闘争の存在だったと思っています。
芹澤 いまの歴史的な情勢の特徴を労働者に知らせる。これは連合サイドではできない。UAゼンセン会長と安倍首相の密談は象徴的です。安保法制で国民から浮き上がっている安倍首相が連合最大労組トップと櫻井よしこらの仲介で密会している。危機感を大いに持って知らせなければいけない。

花輪 連合も一つの権力ですがそれを突き崩す力は現場にある。落語に倉の鼠ねずみあな穴から火事で丸焼けになる話があります。穴一つで連合支配は崩れていく。能書きよりも実践に力がある。「連合の方針に従っていいのか」「労働者の権利は守れるのか」と呼びかけることが大切です。

芹澤 連合運動と労働者の基本的要求が対立するのが今度の労働法制の改悪です。連合も簡単には同調できない。この闘争は安保法制とも結合する問題です。この共同闘争を前進させることがUAゼンセンや安倍政権の動きにくさびを打ち込む。

 正規と非正規の団結

花輪 連合の最大の弱点が本工主義です。連合の運動論では、中小・下請けはまとめきれない。ここは私たちがつめていく必要がある。上から目線での救済主義では破は たん綻する。
 僕らは現場労働者の団結という方向をとる。その決定的な違いが分かってくれば連合の運動論も破綻していく。現場で闘った経験からも「連合の運動は行き詰まる」と思っている。

伊藤 正社員の立場でもいまの労働法制改悪は動揺する。動労千葉は、ある意味では、正規が非正規に転落することに抵抗する運動をやってきた。この外注化阻止の闘いは非正規労働者の組織化に直結した。その経験や考え方を総括していく必要がありますね。連合はそういう意味では矛盾に悩んでいる。

田中 動労千葉が持続している外注化・非正規化粉砕闘争は、まだ労働者全体の闘いになってない段階ですが、国鉄分割・民営化反対闘争の最も重要な継続だと思っています。僕はこの闘いをやるまで、〈本工と下請け、正規と非正規の連帯〉を主張する人たちを全然に信用しなかった。それがどれほど大変なことなのかは韓国民主労総などの闘いを見れば明らかで、軽々しく理屈だけで口にできることではないと考えていた。 外注化反対闘争を15年間、非妥協的に持続し徹底的に闘いぬいて、初めてともに闘うことができるんだということを具体的につかむことができた。これを広げていくことができるのかがこれからの最大の課題です。
 社会崩壊に立ち向かう闘いの柱も、やはり外注化・非正規化との闘いだと思います。これまで、非正規に突き落とされたひどい現実への闘いはあっても、労働運動は非正規化されていく過程に対してまったく立ち向かえていない。JRでは地域切り捨てと一体で本格的な外注化攻撃が始まります。闘いはこれからです。

花輪 言うは易く行うは難しでこれからが大変ですね。

田中 でも闘い続けた結果、JRでは外注化の構想全体をおそらく10年は遅らせた。外注化の最先端を担うべきJRが最後尾になっている。JRは車掌や運転士まで外注化しようとしている。安全問題も含め矛盾が吹き出すのはこれからです。解雇撤回闘争と並ぶ闘いの柱が外注化阻止闘争です。しかもその闘いは、労働法制の最後的解体攻撃との最先端を担うことになる闘いでもあると考えでいます。

 外注化との闘い

芹澤 JRの職場課題に対する国労や他の労働組合の対応はどうなんですか。

田中  攻撃の全体像や見通しを組合員に知らせることすらしないのが現状です。それで全部ズルズル受け入れていく。 たとえば、7月から駅業務を委託していた会社の大再編が始まって、千葉ではJR千葉鉄道サービス(CTS)で駅業務をやっていた労働者がステーションサービス(JESS)という会社へ転籍になった。だけどそれを組合員に知らせない。
 なぜなのか。JRでは今後10年で約半分が退職します。一方、〈65歳までの再雇用先を確保するためには業務委託しかない〉という論理で外注化が進められる。それ自体おかしな論理ですが、そう言われて押し黙っているのが現実です。

花輪 大きな企業は、たくさんの子会社をつくり、それをマネジメントして金を動かすだけ。業務を細分化し、実務をする会社ではいつでも労働者のクビをすげかえる。労働者の連帯が難しい仕組みになっている。ここを突いていかないと労働組合の団結は上滑りする。

田中 JRもそれを目指している。JR本体は、株と鉄道施設を保有するだけにする。鉄道業務を何層もの数百、数千の請負会社に委託している。 外注化と対決して分断を打破し、それを止める闘いに挑戦しています。まだ小さな芽かもしれないけど、動労千葉が外注化・非正規化と闘っているのを下請会社の労働者がみていてくれて動労千葉に加入し始めています。

5 労働組合の復権の可能性

田中 館山や銚子での取り組みも、単に特急列車廃止だけの問題ではなく、896都市消滅と言われるほど社会の崩壊が進む状況の中で、労働運動再生のひとつの道を探る取り組みだと思っています。地域崩壊への危機感が渦巻いています。現実に人が生きていけなくなっている。とても払えないような金額まで水道代が高こうとう騰し、公立病院や保健所、学校、公共機関がどんどん撤退し、働く場もない。国保まで崩壊しようとしている。まさに新自由主義が生み出した恐るべき現実です。
 労働組合が中心に座ったとき、バラバラに存在する怒りの声をひとつの力として、コミュニティーとして、地方の中央に対する反乱として組織することができる。日教組や自治労などは、本来なら一番そういう可能性を持つ存在です。そのときに労働組合が本当の意味で力を取り戻す。そうした展望をつかむことができた。
 
動労水戸の闘い

 動労水戸の闘いもこの時代に決定的な問題を提起しています。 安倍政権は常磐線の全線開通を打ち出した。常磐線は福島原発の真横を走っている。これは復興の名による福島見殺し、復興の名による何ひとつ収束していない原発事故の恐るべき現実の隠いんぺい蔽、原発政策推進という点では最大級の攻撃です。すべて労働者に被曝を強制して国家が生き残ろうとしている。誰かが声をあげなければいけない。
 動労水戸の仲間たちがストライキをもって声をあげたんです。その闘いの意義は本当に大きい。だから、原発復旧にあたる労働者をはじめ全国の無数の労働者がこの闘いに注目した。しかもそれは「選択と集中」を掲げた第二の分割・民営化攻撃との闘いそのものでもあります。

動労総連合を全国へ 

 国鉄闘争全国運動を本格的に発展させたい。そして、組織拡大を実現し、動労総連合を全国につくりたいと考えています。時代が動き始めたと思うのです。新しい挑戦です。30年に及ぶ国鉄分割・民営化反対闘争の持つ位置は本当に大きいと思うし、労働運動全体を獲得する力を持っていると思うからです。

芹澤 動労千葉は、1047名解雇撤回の闘いの中から時代をどのようにみているのか。その基本的な見解を整理して明らかにしてほしい。それがみなさんに勇気を与える。

田中 簡単ではないですが今はチャンスだと思っています。支配体制の側がこれほど矛盾を抱えている時代はなかったのではないか。

芹澤 そういう受け止め方がなかなかできない。具体的行動を編み出していく運動を。

田中 敵の側が言うことに積極的な要素がまったくなくなっている。かつてなら幻想をふりまいて支配した。そういう意味でも労働者が力を取り戻す時が来ている。

花輪 経済的貧困だけでなく精神的な貧困もある。単に金の問題じゃなくて総体的に貧しさを打破する観点も必要かもしれないですね。

山本 昔は貧乏だった。いまは貧困。昔の貧乏は連帯感みたいなものもあったけど。

田中 新自由主義が社会的連帯を断ち切った。孤立と自己責任になっている。

山本 昔は労働組合がそれなりにあって職場や地域の関係もあった。それが今は絶たれている。動労千葉が解雇撤回をずっと闘っているのは一つの希望だと評価して「動労千葉を支援する会」に入ってくれた人もいる。

伊藤
 自分たちの職場や地域で起きていることを議論し広く訴える。例えば教育現場では教員の非正規雇用化や多忙化と結びついて教育の過程そのものが破壊されていく。そういう社会的な議論を教育労働者が組織していく。タネはいっぱいある。それが全国的に広がっていくとき展望が出てくる可能性がある。


山本 今度の最高裁の決定は、労働運動を破壊する攻撃という面と、ものすごい地平を切り開いた面と二つある。その闘いの過去・現在・未来についてどんな小さな集まりでも全国各地で訴えたい。

芹澤 動労千葉の闘いの歴史的な教訓は大きいと思っている。これだけ組織だって解雇反対を闘い、連帯を追求し、自らの力でも努力し、最高裁の最後までやり抜いた闘争は戦後史でもないのではないか。28年間、屈せず、なおかつこれからも闘い続けていく闘争は戦後はじめて。この歴史的な闘いを誇りに思い、学んだ多くのことを運動に返していく。ぜひ中間的なとりまとめをしていただきたい。

田中 8月23日に、上告棄却への報告・決起集会を行います。新しい出発点にしたい。これからも反動と対決し、紆余曲折を経ながら進むと思いますが、情勢は間違いなく変化し始めている。労働運動が甦る条件はあります。秋には、全国各地で網の目のように国鉄集会を開き、新しい闘いへの決起も訴えていきたい。

日韓労働者の連帯

 もう一点、国鉄分割・民営化反対闘争の中から生まれた国際連帯闘争に大きな可能性があると感じています。今、韓国民主労組はゼネストに立ち上がっていますが、国鉄分割・民営化反対闘争の経験が一番通用したし、信頼関係をつくりだす最大の原動力でした。だから、この闘いの経験は必ず全体を獲得できると確信を持っています。
 6月7日の集会で鉄道労組ソウル地本と動労千葉は正式な共闘関係を結び、民営化と闘う日韓鉄道労働者共同宣言を出した。国際連帯を発展させ、新自由主義が崩壊している過程にどういう運動ができるのかを追求していきたい。

芹澤 これも動労千葉労働運動の大きな特徴だと思う。韓国労働運動と闘っている組合同士の連帯活動はあまりない。儀礼的なあいさつや交流はある。動労千葉は組合員レベルで行き来している。労働運動の大衆的闘争の中での国際的連帯を実践した経験として記録されるべきだと思います。

田中  闘いは何ひとつ終わっていない。動労千葉は新たな闘いに立ち上がる決意です。(了)