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保守三部門の全面外注化は安全の崩壊を招く!

  保守三部門の全面外注化は、この間明らかにしてきたように鉄道会社としてのこれまでのあり方をその土台からひっくり返し、そこに働く労働者の労働条件、雇用・賃金を根底から脅かす攻撃である。だが何よりも安全を根本崩壊させ、鉄道輸送にとって根幹をなす技術力とその継承を断ち切ってしまうものだ

外注対象は鉄道業務の根幹部分

 今回の攻撃で外注化対象とされている業務は、鉄道輸送にとってまさに根幹をなす業務だ。検修関係では、日常的な車両の検査・修繕業務のほとんどがその対象であり、構内関係では、本線での列車運行の要をなす全国の車両基地での入換・入出区作業及びその計画業務が全て対象となっている。また設備部門の保線・電力・信通・土木・建築・機械関係でも企画、計画、管理業務以外は全て外注化の対象という提案だ。
 ここで提案された委託対象業務は工場などを除けば、技術系統の職場の全てである。言うまでもなく、鉄道固有の技術力は今回外注化対象にされた職場に蓄積され、そこに働く労働者によって綿々と継承さてきたのである。それを全て外注化してしまって構わないというという発想自体が鉄道会社としての基本を放棄するに等しいものだ。

引取検査は書面委託費は削減

 しかも今回の業務委託では、交番検査等委託した業務の引取検査は書面で行うとしている。要するにJR側は「作業が終了した」という書面を形式的に受け取るだけだということだ。そればかりではなく、例えば交番検査を委託する場合、車両整備会社にどの機器をどのような方法で検査させるのか等の具体的な内容は契約で確認するとしているが、その作業を何人でやるのかは委託先会社の判断になるというのである。まさに監督責任すら放棄した無責任体制だと言わざるを得ない。
 こうした一方で、ニューフロンティア21では、「メンテナンスコストを徹底的に縮減する」ととして、メンテナンスコスト縮減の数値目標まで設定しているのだ。この方針のもとにJRは、業務委託費をこれまで以上に叩くことは間違いない。さらには、連結決算を理由として「関連会社にも業績評価を適用するとしていることなど、委託先の会社はJRから二重三重に叩かれる状態のなかで委託された業務をやらざるを得なくなる。こんな状態のなかで充分な保守・点検作業が実施され、安全が保たれるはずはないのだ。

山手貨物、鶴見駅事故等の現実

 しかもこうしたことは想定の問題ではなく、すでに現実に起きていることである。
 まだ記憶に新しい山手貨物線での下請労働者5名の痛ましい死亡事故は、現在でも保線業務などでは、まともな責任体制や連絡体制、保安体制も確保されない状態のなかで作業が行われている実態を示すものであった。
 これは本来であればJRの監督責任が厳しく問われなければならないはずの事件だが、JR→元請→下請という構図のなかで施行管理は元請とすることによってJRはその責任を逃れているのが現状である。
 さらにそればかりではない。この3月には、鶴見駅構内で委託による保線作業の直後に脱線事故が発生しいる。その後の調査では、軌道に基準値を超える「ねじれ」があったことが明らかになっており、マスコミなどでも作業後の測定、仕上がり検査が行われていなかった疑いが指摘されている。
 この保線作業は、運転士からの異常動揺の申告に基づいて急きょ設定された作業であった。JRはそれを、別に予定されていた作業と相乗りさせる形で元請業者に委託している。その結果、常識的には20名以上の作業員が必要となったが、当日の作業員は15名しか確保されていなかったというのだ。
 しかも昨年9月の改悪で、それまでは軌道管理責任者、保安要員、作業員等の人数を記載しなければならなかった「保安打合せ票」の人数記載欄は削除され、JRが発注した作業が何人で行われているのかは、現場に行ってみなければわからないという事態が生まれていたというのである。
 しかも、「保安打合せ」はファックスで済ませられる仕組みに変更され、「発注者として作業安全上の注意喚起を行うのは差し支えないが、障害事故に対する注意や安全管理に関する内容について、指示もしくはそれに近い行為があった場合は、その行為自体が施行管理とみなされ、当社が特定元方事業者と見なされるおそれがでてくる」という趣旨で「事故防止上の注意事項」も削除されたというのである。これは無責任体制の極致というべき事態だ。これが現実であるにもかかわらず、「委託先会社でもJRと同等の教育を行うので安全や技術力の上で問題はない」と言って外注化攻撃を強行しようとしているのだ。

さらに規制緩和

 問題はそればかりではない。社会的に「規制緩和」が何か経済再生への万能薬であるかのように高唱される状況のなかで、検修業務をはじめ、検査周期等に関する規制が一切撤廃されようとしているのだ。認可を受けた企業は一切の規制に縛られずに、交番検査や要部検査、全般検査など、どの機器をどのような周期で検査するのか、全て企業が勝手に判断できるようになろうとしている。実際JR東日本はこうした規制緩和を見すえて、外注化提案とは別に「メンテナンス近代化の推進」「新保全体系」と称して、これまでの車両の検査体系そのものを抜本的に変更しようとする計画を明らかにしている。今回の外注化攻撃は、これで終わりではないのだ。ひと言で言えば、車両の検査などほとんど行わない体制にしてしまおうということである。
 実際新系列車両の場合、現在でも4両編成の交番検査に対する検査要員に張りつけは2名に過ぎない。要するにまモニターで機能を確認すれば良いというだけの体制にしてしまっているのだ。もちろん実際の作業はそんなことでは済んでいないが、会社は机上の論理で一切を進め、その矛盾は全て現場にのしかかっている。
 社会的にも様々な分野で「ハイテク過信」が問題視されているが、JRでもホームの反対側のドアが突然開いたり閉まったりするなど、異常な車両故障が多発している。こうした事態も含め、現在ですら問題は山積しているのだ。

技術力の維持・継承の放棄!

 さらに技術力の維持・継承をどうするのか、という問題は極めて深刻だ。
 今回の外注化提案は、大量退職期を迎える状況のなかで、年金制度の改悪を徹底して悪用し、ベテランの「シニア社員」を超低賃金労働者として活用することで業務の全面的な外注化を強行しようというものだが、当面年間平均三千名という「大量退職」のヤマが抜けた後の業務遂行の展望については、会社は何ひとつ明らかにしていない。
 当面は定年後のベテラン労働者を車両整備会社に再雇用することで、仮にのり切れるとしても、大量退職の山が抜けた後の5年後、10年後の業務遂行は一体どうする気なのか、会社はその展望を何ひとつ明らかにしていない。OBをあて込んで業務を外注化したはいいが、その後補充はいつまでも続くわけではない。
 それどころか、否応なく重量物を扱わざるを得ない検修作業やつねに事故と直結し、事あれば全責任を問われる構内作業に、13〜14万円の超低賃金で60歳を過ぎた仲間を使おうということ事態どだい無茶な話しである。どれだけの退職者を確保できるのかも見通しはたっていない。そして何よりも、こんなことにうつつをぬかしていれば、当然にも地道に現場の技術者を養成し、技術力を継承していくという努力は放棄されることになる。現在でも検修職場には20年もの間、新規採用者はほとんど配置されておらず、技術断層は深刻化している。こうした状況のなかで、業務の全面的な外注化などを強行したら技術力の継承が完全に崩壊することは火を見るよりも明らかであると言わざるを得ない。
 こうした面からも運転保安が根底から脅かされることになるのは明らかである。