腹をすえて 全員ろう城

89年 12・5スト

 

十二月五日、時計の針が零時をまわると、スト拠点の津田沼、千葉転、木更津、館山、勝浦、銚子支部がそれぞれ確保したろう城先の電話が一斉に鳴った。本部からのスト突入指令である。
 津田沼支部でも前夜の総決起集会や抗議行動を闘い、組合事務所でのろう城部隊以外の全員がろう城先に集結し、部屋は騒然としていた。しかし、電話が鳴った瞬間、うそのように静かになる。派遣執行委員のAさんが「ハイ、わかりました。零時から二四時間ですね」という会話に一点集中しているのだ。
 派遣執行委員のAさんは電話をきるなり皆んなに向って「そういうわけですから」とサらりと指令を“伝達"。部屋中からドッと笑いが巻きおこる。中には「Aさん手抜きするなよ」などという冗談もとびかい、また元の喧騒としたむせかえるような状態に戻るのである。なかには、誰に指示されたわけではないのにタバコの吸いがらをかたづける者、明日の食事に気を配る者など、ろう城ならではの“秩序”と献身性が如何なく発揮されている。深夜一時、二時になっても部屋の片すみに積まれた貸し布団に手をつける者はいない、ワイワイ、ガヤガヤ、時には高笑いといった活気が部屋に満ちあふれているのである。勿論、だからといって“武装解除したり「対当局や権力との関係を甘くみているわけでは決してない。時おりパトカーが電気を消して巡回してくる、当局の動員者も消耗しきった顔で三、四人が組みになって偵察にくる、このような時には即座に緊張し、身構えているなかに、油断とかスキといったものは見られない。選抜し、支部組合事務所にたてこもり、敵の包囲の中で闘っている仲間と完全に一体なのである。
津田沼以外の拠点の前夜もほぼ同様にたたかいがすすめられていったことが報告されている。
組合員が一旦腹をすえ、一丸となってストに突入したとき、その時点であらかた勝負が決せられたといって決して過言ではない。

 そのあたりを、最も攻防戦が激しかった千葉転の役員に聞いてみた。

ストの準備期間も短かったし、色々大変だったと思いますが。

O君、「はっきり言って無我無中でやったということだね。千葉転は、分割・民営化決戦で永田支部長以下ほとんどの役員が解雇され、五人の先輩や仲間が事業団に送られた。その後、しばらくの間、執行体制も十分に出来ない、それをいいことにして、当局や極一部のJR総連の連中はデカイ顔をしている。とにかく何んとかしなければ、ということで若手を中心に必死で体制をつくってきた。その後も一進一退の状態がつづいていたけど先輩が一生懸命支えてくれたので、ここまでやってこれた。そういう状況の中で十二・五ストが指令されたわけです。本当に真剣勝負だったな」

H君「ストのやり方、ろう城の場所づくりから、食事の手配など、全てが初めての経験といっていいわけだから必死だった。こんなに真剣になにかをやったどいうのは初めてじゃないかな。
だから、細かい事は、ほとんど記憶に残っていない。ただ、俺たちの職場に東日本の当局の動員者が我がもの顔で入ってきて「お前ら出ていけ」といった態度には頭にきた。あの時の怒りは絶対忘れない。
 それと、ろう城について、場所を貸してくれたところで、「ガンばってな」と激励されたことも強く心にのこっている。じ一んときたね」
A君「ストの「指令」が下りたのが、確か四、五日前だった。時間が少ない中で全乗務員をオルグしたり体制をつくるということで、十分に寝る暇もなかった。永田さんや何人かの解雇者も応援にかけつけてくれて本当に助かったよ。心配もあったけど思っていたより皆んな協力してくれ、どんどん体制がつくられていった。普段あまり協力的でない人もいざとなると、一生懸命やってくれ、仲間意識の強さを感じた。」

オルグで苦労した点は何んですか。

H君「分割・民営化決戦と、その後の処分のイメージがだいぶ残っていて、それをどうのりこえるかが苦労した点です。「スト権があるから」といっても、すぐに『ハイそうですか』、とはいかないわけですから」

O君「確かにスト後処分ということがまず頭にのぼるわけで、特に処分ばっかり受けてきた四〇代の人は最初は口が重かった。だけど、前に営業や検修で何度かストライキをやってきたわけで、その辺も含めて話し合う中から全体がやる気になっていった。
 そうすると、普段仕事もきついし、当局もエバッテル「ヨシ、それじゃ一発ここでやるか」というムードが急速に盛り上がったように思う。」

A君「JR総連は問題外としても『国労はどうする』という質問もかなり出てた。こうした意見を受けて、支部長(当時は繁沢支部長)が分会に“共闘”の申し入れをやった。分会の組合員もだいぶ盛りあがってはいたけど、分割・民営化決戦のときのことがあるから皆んな心配したのは当然だったと思うよ。」

最後に「特に印象にのこったこと」についてうかがったら三人とも「一から十まで初めての経験だったけど、全組合員が本当によくやってくれた。百%全員がストに入ったとき、涙が出るほどうれしかった」という同様の感想がのべられた。