DC通信No.189
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「動労千葉震災レポートNo60」

福島は、今、このような状況にあります

杉井吉彦(ふくしま共同診療所・医師)

東日本大震災で福島第一原発は、過酷な大事故を起こしました

 広島の原子爆弾の約160個分の、放射性物資が拡散した。チェルノブイリ爆発事故と同じレベル7の過酷事故です。現在なお、ベラルーシなどの避難権利地域・避難義務地域に相当する高汚染地区が、福島県の広い範囲に広がっています。
福島県の高汚染地区などからの避難者は、依然として15万人を超えています。高レベルの放射能の多くを、日本国内はもちろん、空中と太平洋上に放出し、地球環境を大きく汚染させた加害者であることを日本政府は、世界に明かにすべきです。しかも、現在たまり続ける「放射能汚染水」の漏出事故が続いており、事故の収束・放射線漏出のコントロールが全くできていません(東京五輪の招致演説で安倍首相は「完全にコントロールされている」と大嘘をつきました)。 その責任を取らずして、国内の原発再稼働や、世界中への原発輸出などできるわけがありません。

福島県内で甲状腺小児がんが多発している

 チェルノブイリ原発事故での健康障害として、唯一WHOが認めたのは、「小児甲状腺がんの増加」です(チェルノブイリ周辺諸国から、小児だけではなく、成人甲状腺がんの発生も増加しており、現在も増え続けているとの報告があります。そればかりか、全身に及ぶ悪性腫瘍の増加や免疫機能の低下に伴う障害・疾病が明らかに増加しているとの、政府報告や医学論文も多数あります)。この状況に対して、福島県は、「県民健康管理調査検討委員会」で18歳以下全員の(全体で36万人。現在28万人で22万人まで終了)甲状腺超音波検査の3次中間発表(注)で、小児甲状腺がん及び疑い(疑いとは「生検細胞診で悪性細胞が出ている」と理解される。医学的にはこれも「がん」)が59名(手術27名・1名良性)、と公表した。
(注)2013年11月12日の3次中間発表を追記

 県は、「事故による放射線の影響は無い」と断言しています。県は、その根拠に、「ベラルーシ等で甲状腺がんが急増したのは、チェルノブイリ事故から5年が過ぎた頃からである」とか、「超音波検査器の性能が上がり、微小な腫瘍も発見できるようになったからである(チェルノブイリ事故直後には、超音波診断装置は未発達であったのですから、比較すること自体が医学上の誤りです)」と主張します。しかし、ベラルーシ等では、被曝1年後から小児甲状腺がんの発症が増加したのも事実であり、一般的に小児甲状腺がんの年間発生率は100万に1人に対して、福島県では約数千人に1人という異常な頻度で発症しています。疫学的にも医療常識的にも、事故による放射能の影響なのは明らかです。

「県民健康管理調査検討委員会」

 「委員会」は今後も、情報隠し・ずさんな体制を改善することなく、ただ「被曝によるものでない」と主張し続けるでしょう。安倍のオリンピック招致演説での「完全にコントロールされている」とならんで「健康問題は過去・現在・未来において起こらない」という、恐るべき「意思・推測表明」に縛られ、最後まで「因果関係」を認めないと予測されます。このことは、将来の「甲状腺以外」の疾病に関しても、「医学的・疫学的」に因果関係はないとの方針が貫かれるでしょう。
 「委員会」の犯罪性は明らかです。情報の公開を徹底的に追求し、反論の機会を作り、追及していかねばなりません。

募金によって「ふくしま共同診療所」が建設されました

 日本政府・福島県は、原発再稼働のために「放射能はすでに安全・安心」を強調し、一部を除いて「帰郷」を進めています。そして甲状腺超音波検査のずさんなやり方、検査結果を公表しないことへの福島県民の不安・不信が高まり、全国からの支援も得て、「募金診療所」として昨年12月に「ふくしま共同診療所」が開設されました。

 私たちは、県民の放射線障害に対する医療要求に応え、「避難・保養・医療」を診療上の原則として医療活動を開始しています。子どもを放射能の影響が少ない地方へ避難・保養へ行かせる運動と連携しています。特に精密な甲状腺超音波検査を行い、共に、「被曝・放射線障害」に対して、放射線障害の早期発見と、健康を守る「共同」の努力を傾けています。

 放射線による影響、特に内部被曝は長期的・全身的なものであります。いかなる事態にも対応し、20年先50年先を見据えて、県民の健康を守れるよう長期・強靭な医療活動を続けていきます。

 診療所活動と並んで重要なのは、被曝を避け、健康を守るための「共同」の行動の必要性です。特に被曝を強制される労働環境を拒否する労働者と共に進む必要性があります。鉄道労働者をはじめとして、多くの労働者(公務員は特に)が「高汚染地区」での労働を強制されています。被曝労働拒否の闘いに連帯・支持し、全力で支援しましょう。

 廃炉・除染(日本政府は多額な費用をかけて土地・家屋の「除染作業」を行っています。しかし一時的に「除染」によって放射線量が下がっても結果的に放射線量は再び上昇します。圧倒的広さの山林の除染が不可能なためであり、「移染」でしかありえないわけです。作業を担う労働者を放射能障害から守る必要があります。既に多量の放射線を浴びて作業から離れた労働者がいます。今後、放射能障害が生ずる可能性があり、健康管理を欠かせません。事故収束には数十年を要するのに、原発・除染労働者を犠牲にして原発再稼動・新設を強行することを許しません。

原発など核施設周辺の労働者市民を放射能から守る

 「稼働している原発の周囲住民に、悪性腫瘍発生率が高い(アメリカにおいて乳癌の発生が原発周辺地域で、統計学的に明確に多い等)」という、国際的な医学研究結果が複数報告されています。事故だけでなく、常に放射能が漏出・放出されている、近隣市町村の健康調査・管理が必要であり、原発の廃炉以外に、その危険性を除去することはできません。

全世界の原発を廃止することが唯一の道

 人類にとって、原発の維持は生存を危うくするものです。「原発は地上におかれた原爆」「核と人類は共存できない」のです。万全の廃炉作業を行いつつ、原発廃止・廃炉を世界中の英知を結集して行うべきです。

原発推進のICRP等の安全基準を止めさせる

 日本では、外部被曝のみを対象にして20ミリシ−ベルト/年以上を避難汚染地域としています。ベラルーシやウクライナでは、内部被曝を含めて、0.5ミリシ−ベルト/年が基準です。日本は、チェルノブイリの現実・経験から学ぶべきです。ICRPは放射線被ばくの「安全域」を広げ・健康維持を考慮しません。ICRPは原発を維持・推進するための、悪質な団体です。放射能障害に安全域はありません。

全力で、「被曝させられた」福島県民の健康と命を守り続けます

 福島県では、東日本大震災による津波で約1500名(行方不明200名)がなくなりました。3.11大震災から2年8か月の現在、「公的」な統計ですら「震災関連死」(避難の過程で亡くなった老人施設の患者さん[移動するバスの中ででもなくなっています]、仮設住宅の劣悪な環境で病気が悪化して亡くなった人々、生活の基盤を奪われたり「帰還」できないことに絶望し精神的・肉体的に追い詰められた人々の死)が津波で亡くなった人々の数を超えつつあります。「関連」ではなく直接的な「原発関連死=直接死=虐殺」です。福島はこのような状況にあります。

ふくしま共同診療所は全力で、「被曝させられた」福島県民の健康と命を守り続けます。全世界の人々の理解と協力をお願いいたします。


2,013年11月4日、労働者国際連帯集会にて;

 


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