DC通信No.146
 2010/02/28
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*今回のパンフレットに掲載した講演録は、ライフサイクル粉砕!検修業務全面外注化阻止を掲げて闘いぬいた2・1〜2ストライキ時、2月1日の幕張支部スト突入集会の中で行われた西村弁護士の「『偽装請負』と『出向』問題」に関する講演を、日刊動労千葉編集委員会の責任で編集したものです。

検修業務全面外注化は、「偽装請負」だ!

「偽装請負」=安い労働力の導入!
 どうもご苦労様です。弁護士の西村です。
今日は、検修業務の全面外注化に伴う法律的な問題として、「偽装請負」と「出向」問題について説明させていただきたいと思います。
 今回の検修業務の全面外注化は、本質的には「偽装請負」そのものになるんですね。「偽装請負」問題は、3年ぐらい前から、トヨタやキャノン、日立、松下などの大企業が軒並みやっているということで、労働者がそれに対してチェックをかけるということで大問題になりました。
 「偽装請負」とは何かというと、「請負」という形をとって、実は安い労働力を入れるということです。一番典型的な「請負」の例を上げれば、家を建てる場合です。専門業者に仕事を発注し、その専門業者の責任で家を作り、それを受け取る。そして「請負」業務全体に対して代金を支払う。これが「請負」です。
 本来の「請負」というのは、別会社に業務の一部を請け負わせ、その別会社の労働者を生産工程の一部に入れるんだけれども、「偽装請負」では、自分の会社の労働指揮権の下に他会社の労働者を入れて仕事を行うというものです。これは、「請負」という形を偽装した単なる労働者派遣という形になり、違法です。これが問題になったわけです。

「請負」には明確な基準がある!

 労働者の派遣=労働者供給業務と「請負」との差については、明確な基準が法律上も定められています。職業安定法の施行規則には、「請負」と労働者供給事業の区分の基準がはっきり明記されていて、「請負」契約の形式であっても、次のすべての要素を満たさなければ「請負」ではないという厳しい定め方をしています。
 「請負」の要件としては、@作業の完成について事業主としての財政上及び法律上のすべての責任を負うこと、A作業に従事する労働者を、指揮監督すること、B作業に従事する労働者に対して、使用者として法律に規定されたすべての義務を負こと、C自ら提供する機械、設備、器材やその作業に必要な材料、資材を使用し、又は、企画や専門的な技術、専門的な経験を必要とする作業を行い、単に肉体的な労働力を提供するものでないこととされ、この4つの要件のうちひとつでも欠けたら、それは「請負」ではないと厳しく規定されています。

「労務管理上の独立性」と「事業経営の独立性」

 1986年(昭和61年)に労働者派遣法ができて、ごく一部の職種だけですけれども一応派遣ができるようになり、その後、2000年には全面的に、特に製造業にも広げられました。この労働者派遣法ができたときに「派遣」と「請負」の区分をはっきりしなければいけないということで、労働省(現厚労省)の告示で先ほどの職安法施行規則の規定と似通った内容の定めがされるようになりました。
 この告示によれば、「請負」については次の項目(項目としてはもっと多くの項目になるんですが)の全てを満たしていなければ「請負」ではなく、労働者派遣だという定めになっています。第1は、労務管理上の独立性ということです。第2が、事業経営の独立性ということで、大きく二つに分かれてます。

基準を全て満たさなければ「偽装請負」

 まず、第1の「労務管理上の独立性」という点では、業務の遂行に関する指示、その他の管理、労働時間等に関する指示、労働者の業務の評価、それから企業における秩序の維持・確保等のための指示を自ら行うということが必須の要件になっています。
 それから第2の「事業経営の独立性」ですが、これは一応3つのポイントがあります。一つ目のポイントは、業務の処理に関する資金については、全てその資金は調達しなければいけないということです。
 二つ目のポイントは、業務の処理については、民法、商法その他の法律に規定された事業主としてのすべての責任を負わなければいけないということです。
 それから三つ目のポイントが大事なところなんですが、単に肉体的な労働力を提供するのではないことということで、自己の責任と負担で準備し調達する機械、設備、もしくは機材、または材料、もしくは資材により業務を処理しなければいけないとといています。そして、自ら行う企画または自己の有する専門的な技術もしくは経験に基づいて業務を処理しなければいけない。
 以上のようなことを告示としてはっきり定めて、この基準をすべて満たしていなければ、それは「請負ではない。偽装請負だ」ということで違法だという評価をするということなんです。

検修業務=JR以外の専門企業はない!

 そうしますと、検修業務という、まさにJRが本家本元で、JR以外に専門的技術を持った企業なんてあり得ないようなところに、それを「請負」で出すというようなことが成り立ちうるのかということです。これは、本質的に「請負」なんてあり得ない話です。それをやらせるということは、「偽装請負」でしかないだろうというふうに思います。
 特に、外注する会社に、自分の責任で全ての仕事をやりきれる技術があるはずがないということです。結局、具体的な仕事にあたっては、JR職員の指揮を受けないと、一切ことは進まないだろうと思います。だから、これはどう考えても「偽装請負」であり、違法だろうと思います。
 「偽装請負」の場合に、本当は刑事罰まであるんです。それが摘発されると、派遣法の規定では、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金。それから職安法違反になると、これは双方(注文側、請負側)が処罰の対象となり、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金となります。
 つまり、「偽装請負」というのは、刑事罰まで適用されるような違法行為ですから、本当に大問題ではないかと思います。

出向者の技術指導も「偽装請負」!

 検修業務の外注化を、違法ではないというためにやるには、労働者を請負会社に出向させて、その出向した労働者が指揮、命令をするという形をとるしかないわけです。それによって指揮、命令は何とかクリアーしようと思っているはずです。
 しかし、これも違法だという実例がすでにあるわけです。松下グループの松下プラズマディスプレイという会社で、吉岡さんという人が内部告発して2005年に「偽装請負」が発覚しました。これによって会社は労動局から是正命令を受けて、一旦は全員を直接雇用するんです。その後、半年経って、「偽装請負」じゃないという形をつけるために、請負契約に戻した上で、松下プラズマディスプレイの労働者を技術指導の名目で請負業者側に出向させて、その出向社員が指揮するという形をとったわけです。会社側は、これでクリアーだと思ったようです。ところが、請負契約に戻したのは責任回避のための脱法行為だという指摘があって、この契約変更を厚生労働省は職業安定法違反に当たるとして行政指導を行っています。偽装のための偽装でしかないということで、違法という前例が出ています。
 このほかにも、京都のロームという半導体を作る会社で同じようなことがありました。この会社が、製造業務を請負っている会社に多数の正社員を出向させていたんですが、この出向が、「偽装請負」で問題となる指揮・命令の強制を形式的に回避する手段として行われていたことが発覚して、これも違法だという評価を受けています。だから、出向させたから解決にはならないということです。
 しかも、検修業務外注化の場合、独自の機材を持ち込んで仕事をやるということにはならないわけです。車両センターにおいて、車両センターの機械や資材を使って仕事をすることになるわけで、そういう面からも絶対クリアーできないところがあると思います。この問題はJRの矛盾だし、徹底的に追及できる問題ですね。

「出向」には労働者の合意が必要!

 それから、あらためて「出向問題」について触れたいと思います。
 そもそも、「出向命令」が有効なのかどうかということです。「出向」というのは、JRに籍を残したまま別の会社に移り、出向先会社での指揮、命令を受けるということです。労働契約という点でどうなっているのかというと、JRとの労働契約はあるけれども、その一部が出向先会社との間で半分半分の労働契約になるという解釈がされているようです。それで、指揮命令は出向先会社から受けるという形が「出向」です。ちなみに、労働者派遣の場合は、指揮命令は派遣先の会社から受けるけれども、労働契約はすべて派遣元の会社との間にしかないという形です。
 「出向」の場合、労働契約の一部が出向先に移るということで、誰から指揮命令を受けるのかという根本的な違いが生じるという点では、相当に重要な労働条件等の変更になるわけです。だから、そんなに簡単に、しかも一方的に会社が命令できるものではないことは明らかです。基本的には個別の合意が必要です。会社が「出向に行ってくれ」と要請し、労働者が「わかりました」と言わない限り、出向命令が有効ではないというのが大前提です。
 これまでの裁判の判決の流れで言うと、それだけではなくて就業規則等でかなり具体的な定め、特にどこに行くのかという範囲の問題や、行った場合の労働条件の問題、それから何年間出向し、その後どうなるのかという期限などの問題等々、こういうことまできちんと定めていなければ、一般的に「出向があり得る」ということだけが就業規則に書かれていても、それだけでは出向命令の根拠にならないと言われています。
 だから、これまでの裁判の判決で出向命令が有効だとされたケースは、3社ぐらいの子会社があって、それが同じ労働条件になっていて、そこの会社へ何年間出向させることができるというような具体的な規定があった場合については有効だとされていますけれども、そうでない場合には、出向できないというふうに言われています。

「出向命令」は拒否できる!

 そして、就業規則の他に、特に問題になるのが労働協約です。労働協約で認めてしまうと、出向命令が有効とされることがあり得るということです。ただ、そういうはっきりした就業規則もなく、労働協約にも応じていない場合には、出向命令を出すことが有効だといういうことにはならないわけですから、これははっきり拒否して争うことができるだろうと思います。
 それから、出向命令権の有効な根拠があるかという問題とともに、その出向が強行法規に違反しないかという問題もあります。特に、不当労働行為による出向、ねらい打ち出向のような場合は、それだけで無効だと言えます。それから、本当に必要性がある出向なのかという権利の濫用という問題もあります。
 このように、出向命令について徹底的に争うことは、まったく可能だろうと思います。

「出向」=「転籍」を受け入れさせる攻撃!

 とくに、JRがこれから行おうとしている出向は、3年間出したとしても、結局、帰るべき職場がないという出向です。こんなことが有効であろうはずがないんです。JRが狙っているのは、3年後に結局戻らないことを納得させるということなんです。だからその場合には、「出向」ではなくて「転籍」にしたいわけです。「子会社の社員として行ってくれ」ということで納得させることだけなんです。
 ただ、「出向」以上に「転籍」という強制的なことはきわめて難しいです。だから、帰っても職場がないよという形をつくることで「転籍」を受け入れさせ、それが一番合理的なんだという論理で進めようということだと思いますが、それ自体とんでもないことです。「出向」は徹底的に拒否して争うということが必要になってくるだろうと思います。

検修外注化とは、延々と続く違法行為だ!

 さきほどの「偽装請負」の問題にしてもそうですが、検修業務を外注化した場合、本質的にはまず違法な状態から始まるわけだけれども、JRが狙っているのは、時間が経たてば違法ではなくなるという形にしたいわけです。JR特有の検修技術がすべて関連会社に移り、検修という専門的な技術が関連会社にしかないということになったら、本当の「請負」になってしまいます。だからそういう形にするために時間をかけたいのだろうと思います。しかし、そこに行くまでには延々と違法状態が続くわけですから、それを絶対に許してはいけない思います。

【質疑応答】
組合員 今あるJRのマニュアルとか工具とか設備を持ち込んで、その関連会社でやったらもう偽装請負ということですか。
西村弁護士 それはもう間違いなく「偽装請負」の基準に明確にあてはまりますね。
 形式は会社も色々考えて、表面上は取り繕う可能性はありますけれど、だけど中身を見ると間違いなく「偽装請負」です。表面的なことではごまかしようがないだろうと思います。
組合員 「出向」については、協約も結んでいないし、自認書も書かないし、就業規則にもそこまでは書いていないわけですから、そことは勝負できるのでは?
西村弁護士 「出向」について争うというのは、それは現実的な問題で、必ず必然化します。出向命令の違法性を争う時には、偽装請負の問題もすごく重要な根拠になると思います。
組合員 現在、上回りのようにすでに外注化にされている仕事もあるんですけど、同じ倉庫から、元会社と下請会社が同じ部品を出してきて使うのは違法じゃないんでしょうか?さっきの話を聞くと、本来だったら下請会社が揃えなければいけないと思うんです。ネジ一本や蛍光灯一本からからはじまって、今までは当たり前のように出していたんだけど、西村弁護士の話を聞くと全部偽装請負じゃないですかと思うんです。
西村弁護士 これは、本当は「当たり前」じゃないんですよ。
田中委員長 資材から何から全部自分で揃えなければいけないという問題なんですが、これは車両センターの構内でやるわけだから、ジャッキにしろクレーンにしろ全部JR本体の設備を使ってやらざるを得ないわけです。これはもう当たり前なわけですよね。例えば、こうした機材や部品等を自ら揃えたということを形式上作るためには、関連会社がJRから有償で使用する「契約」をして、「これは借り受けているだけで、金は自分で払っている」んだという形ですり抜けるということはあり得るのかなと思っているんですけど。
西村弁護士 多分そういう形をとってくるでしょう。会社側の弁護士との相談の中でも「そういう場合には賃貸借形式を組んだほうがいい」というようなことも出てくるでしょう。でも、それでクリアーできるのかは疑問ですね。
組合員 それは物品や倉庫のねじひとつまで含めて、下請会社が買ったようにすればOKということですか?
西村弁護士 「買ったようにする」こと自体、それこそ「偽装」になるということです。
田中委員長 交渉の中でJRは、「出向で行った社員が技術指導を行う」と明確に回答しているわけですが、これはもう逃れようもなく違法行為ということですね。
西村弁護士 先ほど紹介した先例がありますから、明らかに違法行為ですね。
組合員 指示の関係ですけど、どの範囲までが関連会社の指示で行い、どの範囲までがJRの指示なのか、そのへんはどうなるんですか?
 あと、契約上の関係で言うと、賃金の支払いはどうなりますか?
西村弁護士 指示の関係では、仮に「出向」に行ったとすれば、完全に関連会社の指示だけになります。
田中委員長 「出向」の場合の賃金については、JRの就業規則でも出向規定の中に「JR基準」を適用する場合(賃金は変わらないということ)と、「出向先基準」を適用する場合のふたつあると書いてあって、会社の自由にできるようにできていますね。
組合員 現在、エルダー社員制度というのがあって、60歳で一旦退職、JRに再雇用されて鉄道サービスなどに出向しているからそこからの指揮命令があると思うんですけど、同じエルダーでもJR本体に残っている人もいるんですけど、その場合にはJRからの指揮命令なんですかね。
田中委員長 エルダー社員は、JRを一旦退職後にJRが再雇用しているわけだから、エルダー社員もJRの社員なんですよ。だから、これから検修全面外注化がはじまった場合、エルダー社員の出向も「若年出向」と言われているやつと大きくは変わらないと思うんですよ。
組合員 じゃあエルダー社員も指示してはいけないということですよね。いっしょですよね。
田中 向こうの会社の指揮命令の下に入っちゃうということは、変わらない。だからJRが指揮命令したら、先生のお話だとそれは偽装請負になるということですね。
組合員 松下プラズマディスプレイ事件ですけど、「偽装請負」だと内部告発されて行政指導を受けましたが、その期間、仕事をしていたんですか?
 あと、そういう提訴している件数は多いんですか?
西村弁護士 行政指導を受けた後も、仕事はしていました。労働局から「その形だと今後は続けられない」との指導を受けて、一旦は請負から直接契約の社員という形で契約し直して、仕事を続けたということですね。
 「偽装請負」の告発に関しては、勝っているケースはいくつかあります。また、厚生労働省も、「違法だ」して実際に指導した実績もあるし、判例上も「偽装請負」が違法だということはハッキリ認められていますから動かしがたいところですね。
司会 よろしいでしょうか。それでは最後に、西村弁護士に拍手をお願いします。



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