DC通信No.99 06/05/01
動労千葉弁護団声明

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動労千葉弁護団声明

安全運転闘争に対するJR東日本の敵対行動を弾劾する

1.動労千葉の安全闘争に対する不当な懲戒処分
 動労千葉は、06年3月10日から18日まで、線区の最高速度を抑えるなどの安全運転闘争を行った。レールの破断や異常摩耗等が多発しているにもかかわらず、危険な運転を強いられている状態の改善を求めての行動である。
 ところがこれに対し、JR東日本は、動労千葉組合員の運転する運転席に監視のため2人の管理職を張りつけただけでなく、事後に事情聴取と称して組合員を就業時間中に呼び出し、組合の決定や指令、組合員の行動について問いただすという、組合活動に対する干渉・妨害を行った。そして本部役員に対して戒告(6名)と訓告(1名)、遅れが出た運転士12名に対しては厳重注意の処分を行ってきた。これは、安全そのものに対する敵対であるとともに、労働組合の争議権、団結権を踏みにじる行為であり、許すことはできない。

2.安全確保は輸送業務の最大の使命であり、労働組合連動の原点でもある
 輸送業務において、乗客の安全確保が絶対の責任であることは、いまさらいうまでもない。そしてまた、労働者は労務の提供を約しても、生命や身体の安全まで売っているわけではない。列車乗務を安全な状態においてさせることは、使用者としての労働者に対する契約上の責任・義務である(安全配慮義務)。
 また労働者の立場においても、安全運転を行うことは運転士としての職責であるとともに、自らの生命を守る道でもある。それだから、安全運転の確保ということは、運輸労働者の組合にとって、組合運動の原点だといわなければならない。
 現在のJRにおいては、尼崎の大事故に続いて羽越線事故、伯備線事故と、乗客や労働者の生命が奪われ続けている。これは、JRによる連続殺人事件とも言われる事態である。千葉管内においても、レールの破断や異常な摩耗による危険な状態の指摘が相次いでいる。この運転保安の危機的現状に対してその抜本的改善を求め、危険な運転を避けさせることは、労働組合としてなさなければならない、第一の仕事である。昨年12月未に発生した羽越線事故以降、とくに危険箇所として鹿島線・北浦橋梁への強風対策を求めてきたが何ら具体的な対策も講じられず、同様の事故がいつ起きてもおかしくない状態が放置され続けてきた。また、1月7日には稲毛〜西千葉間でレール破断が発生するという状況であった。一方、JR西日本では、曲がりなりにも新幹線の運転時分を見直す等の対策が行われたが、JR東日本は動労千葉が求めた運転保安要求(NEXや危険箇所等の速度制限等)に対して何ら具体的対策を講じようとしなかった。今回の動労千葉のとった安全運転闘争は、まさにギリギリの行動であった。

3.「運行管理権」は聖域ではない
 ところがJR東日本は、この当然の行動に対して「会社の持つ運行管理権を奪う違法な争議行為」だとして、懲戒処分を加えてきた、しかしこれは、安全確保行動への敵対であるだけでなく、労働基本権の一つである争議権(憲法28条の保障する団体行動権)の否定である。
 第1に、争議行為は労働者の要求実現のため、使用者に圧力をかける集団実力行使である。労働関係調整法7条は、争議行為の定義規定において、「この法律において争議行為とは、同盟罷業、怠業、作業所閉鎖その他労働関係の当事者が、その主張を貫徹することを目的として行う行為及びこれに対抗する手段であって、業務の正常な運営を阻害するものをいう」としている。また歴史的にもストライキ(同盟罷業)やサボタージュ(怠業)は争議行為として典型的な行為であり、それだから労働関係調整法の定義にもあげられているのである。
 争議権は、そうした争議行為を行うことを、原則的に権利として認めたものである。運行管理権は平常時において使用者の権利であっても、業務の正常な運営の阻害を権利とする、争議権行使の対象から免れる聖域ではない。
 第2に、歴史的に国鉄として公労法による争議行為禁止が適用された時代には、遵法闘争や安全闘争がその禁止規程違反になるか否か、問題とされ得た。しかし、そうした禁止規定を離れて、労務指揮権の全面的排除であるストライキが合法であるのに、その部分的排除である怠業(スローダウン、減速闘争)が違法とされるいわれはない。積極的に不良品を生産するなどの行為は別として、「いわゆる消極的怠業に止まるかぎり、争議権の行使としてこれをなし得る」(日本火薬厚狭作業所事件、広島高裁1959.5.30判決)というのが、判例や学説の確認してきたところである。しかも、今回の行動の結果として、1行路1分ないし最大4分の遅れが生じたにすぎない。運転保安確保の緊急性がアピールされただけで、企業への具体的損害も生じていない。これを違法な争議行為だと主張し、処分理由とするJRの態度は、争議権全面否定時代の復活を図るものといわなければならない。

4.労働組合の運営への介入は、許されない団結権侵害
 さらに、動労千葉組合員の運転する運転室に2名の管理職を張りつけたことが、運転士に異常なストレスを与える危険な行為であっただけではない。労働組合が自由にその活動について定め、計画を策定するのは団結自治の権利であり、使用者がこれに干渉することは許されない(ILO第87号条約3条、98号条約2条、労組法7条3号)。事情聴取と称して組合員を呼び出し、組合の決定等を質すなどしたのは、組合運営に対する不当な干渉である。
 使用者が職場秩序維持のためと称しても、それが職務内容となっている管理職でないかぎり、労働者には他人の行為について調査に応じる義務はない(富士重工業事件、最高裁1977.12.13判決)。また、組合の集会の監視は不当労働行為として許されない(延岡郵便局事件、東京高裁1978.4.27判決)。まして、組合の争議行為に関して組合員に対する調査を行うなどは、組合活動に対する違法な干渉であり、不当労働行為であることは明白である。

5.処分の撤回と謝罪を求める
 以上述べたように、今回の動労千葉の安全運転闘争へのJR東日本の対応は、組合の正当な争議行為や組合活動に対する不当・異常な攻撃であり、決して許されるものではない。しかもそれは、輸送業務における経営者の安全確保の責任に背き、あたかも建築構造の偽装、必要な鉄筋量を減らすことにも似て、事故防止の要求を抑圧しようとするものである。
 われわれは、これに対し厳重に抗議し、速やかな処分の撤回と真筆な反省、謝罪を要求する。

 2006年5月1日

国鉄千葉動力車労働組合・顧問弁護団


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